今回のコラムでは、前編から引き続き、実際のケーススタディも交えながらミクロとマクロの視点で「プロ・パテント戦略=知的財産権全般の保護強化戦略」についてご説明させていただきます。
目には見えない優良資産
知的財産(知財)は、「資産」です。自分で使うだけでなく、貸出・売却・担保化といった資金調達手段にもなります。
また、相続の対象にもなります(著作者人格権等は除く)。
財務会計上は無形資産に該当し、減価償却期間も定められています。
他の資産との違いは、存続期限が規定されている点です(更新可能な商標権等は除く)。
知財の中でも特に、特許権を保有・使用している中小企業は、大企業よりも売上高営業利益率が高いという事実が(*1)、特許庁より発表されています。
知財が優良資産であることが、ご理解いただけると思います。
特許1つが3億ドル⁉
1985年の米国で、自国の莫大な貿易赤字と財政赤字に危機感を抱いた産業競争力委員会の報告書(ヤングレポート)提出を契機として、世界的に、知財の保護が強化されるようになりました。現在、世界中の企業が、優良資産としての知財の組合せ(知財ポートフォリオ)の構築を、競い合っています。
例えば、Googleは2012年に、赤字体質であったMotorola Mobilityの買収に124憶ドルを投入し、獲得した「特許・技術の価値」を55憶ドルと計上しました。
Googleは、「競合との特許訴訟を乗り越え、Android生態系を守ることができる」知財ポートフォリオを、55億ドルの価値がある(*2)と、見極めたことになります。
一方、買収されたMotorola Mobilityは、「赤字会社でも124億ドルの買収価値あり」と評価される、超優良資産=知財ポートフォリオを持っていたことになります。
尚、買収によりGoogleが狙っていたMotorola Mobilityの特許は、18件であったようです(*3)。
単純計算で、実に1特許=3億ドル強です。知財が企業経営のカギであることを、全世界の経営者達に痛感させた事例です。
日本は知財で稼ぐ力で世界2位、特許出願数で世界1位に
マクロ分析として、国家の知財収支(産業財産権+技術情報+著作権使用料の収支)を見てみましょう。2018年の日本の知財収支は、2.6兆円と過去最大の黒字でした。
2.6兆円の黒字は、貿易黒字(1.2兆円)の2倍強です(*4)。日本が海外市場で、モノ以上に、知財で稼いでいることが明らかです。
2015年の統計ですが、国際比較でも、日本の知財が生む黒字額は第2位(*5)です
中国・インドがキャッチアップ後に、知財立国戦略に切り替え、黒字国への仲間入りを目指してくることは、想像に難くありません。一方、日本は、技術の権利化(特許、著作物、種苗)以外にも、ブランドの権利化(商標、意匠、地理的表示)にも、注力する必要があることが明らかです。
また、世界経済フォーラムによる国際競争力ランキングで総合順位6位の日本は、特許出願数では堂々の1位、知財の権利保護度も8位と、世界をリードする位置にいます(*6)。
総合順位で日本を上回る国の中で、米国とスイス以外は、いずれも知財収支の赤字国です。
知財こそが、日本の国際競争力の源泉であることを、強く実感させる順位です。
メーカーがとるべきプロ・パテント戦略
知財は、個々の商品やサービスの市場優位性(競争力・ブランド力)を示す指標です。では化粧品や健康食品を取り扱うメーカの場合どのようなプロ・パテント戦略が考えられるのでしょうか。
ご参考までに天真堂が実施するプロ・パテント戦略の一部をご紹介します。
もちろん、弊社以外の多くのメーカーも、様々なプロ・パテント戦略を実行しています。
今回ご紹介した世界の企業や国家の事例が、皆様の戦略立案のお役に立てれば嬉しく思います。
参考文献
*1: 特許庁「平成30年度 中小企業の知的財産活動に関する基本調査」報告書
【三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社】H31年3月
*2: Form 10-Q of Google Inc. (June 30, 2012), p75
*3: Brian Womack and Susan Decker”Motolora’s Value to Google Found in 18 Patents” Bloomberg (Aug. 21, 2011)
*4: 日本銀行国際局「2018 年の国際収支統計および本邦対外資産負債残高」2019年7月
*5: WIPO “Economic Research Working Paper No. 37 Nov. 2017”
*6: Klaus Schwab, World Economic Forum “The Global Competitiveness Report 2019”